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「紙屋悦子の青春」~号泣する準備はできていた

category: movie  

もう何週間もたってしまいましたが、「紙屋悦子の青春」の初日を観て来ました。
舞台挨拶ではまず、岩波ホール・高野悦子さんが、ちょうど4ヶ月前に急逝された黒木和雄監督を偲ぶ挨拶。
紙屋“悦子”の年齢よりはお若いと思いますが、高野“悦子”さんもまた、戦時中「悦子の青春(というより思春期?)」を過ごされた世代。黒木監督とは1歳違いということもあり、非戦への想いを監督と共有されていたのだと思います。
続いて、知世さんをはじめ、永瀬正敏さん、本上まなみさん、小林薫さんらキャストのコメント。
おれが観に行ったのは、その日2回目の舞台挨拶でした。1回目が長引いたため、ちょっと足早の挨拶だったようです。
久しぶりに前髪を切った知世さんは、より若く見えました。
肌の白さに映える、ノースリーブの黒いワンピース。
最近、こうした場で黒を身につける機会が多いようですが、今回の黒は、O2さんが書かれていたように(misaeさんのHP「Orange House」http://www2.tba.t-com.ne.jp/orange-1/の掲示板にて)、監督への弔意の気持ちがチラとあったかもしれません。

作品についての第一印象の感想は、「Orange House」の掲示板にバーッと書かせてもらったんですが、ここに改めて整理して書いてみようと思います。

ていねいに、よく作り込まれた佳品だと思いました。
ほとんど舞台の脚本そのままの映画化ということですが、その台詞の緩急や間が、映画となっても違和感なく、当時の人々の息づかいや体温まで伝えてくれるようでした。
小津安二郎監督らの伝統をふまえてさりげない日常のホームドラマを描きつつ、そこから戦争という問題がのぞけるようにしたい。
と、TVの特番で在りし日の監督が自ら語っていましたが、なるほどです。
特に前半は、ドラマティックなことは何一つ起こりません。淡々と日常風景の描写が積み重ねられていきます。
それでいて、退屈というわけではぜんぜんないんですね。
とっても、ユーモラス。何ともいえない可笑(おか)しみがある。
このあたり、なるほど小津監督の伝統かと思います。
長回しのゆったりめの間とテンポは、今のおれたちの感覚からはズレています。
また、今の感覚──たとえばコンパなんかでも、気の利いた台詞とすばやい反射的な受け答えで盛り上がらないとバツ……みたいな風潮から言えば、当時の若者の不器用ともいえる会話は、ズレてる。時折、会話の中にさしはさまれる沈黙なんか、気まずく思える。
しかし、このズレが魅力なんですね。
ゆったりとした間とテンポだからこそ、なにげない一言や表情、しぐさにいろんな味わいを読み取ることができる。
不器用な素朴さのあたたかさ。
沈黙の中にも、会話する者同士がその静かな時間を共有しているような、そんなつながりさえ見えるような気がします。
このあたりも、なるほど小津監督の伝統でしょうか。

「間」のはたらきについて、劇作家・演出家の平田オリザさんが、たしかこんなことを書いていたように思います。
「間」は、観客にあれこれ想像させるはたらきを持つ。
たとえば、歩いていた人物がふと立ち止まって間をつくる。
すると、観客は想像することになります。──なぜ立ち止まったんだろ? 百円玉が落ちてたの? 何か思いついたんだろうか? いや、何かを思い出したのかも? これから引き返すのかな? また歩き始めるの?
……などなど、その人物の内面や状況、次の行動なんかをあれこれ想像し、推測するのです。
この映画のゆったりめの間とテンポも、ちょうど平田オリザさんのいう「間」のはたらきを持っていると思います。
あれこれ、想像させる。
おれたち観客は、ちょっとした台詞の言葉や、ちょっとした目の配りにも、いろんな想像を巡らせることになります。
登場人物たちの内面を想像してしまう。
その想像はまた、平穏とも思える日常風景のすぐ向こう側に横たわる戦争という現実を想い至らせることにもなるのでしょう。
沖縄で明石(松岡俊介)が出くわした戦闘シーンも、安忠・悦子兄妹の両親が命を失った空襲シーンも、悦子たちのすぐ隣りで起きている工場などの被爆シーンも、画面に登場することはありません。
しかし、われわれの日常と地続きのような当時の日常の生活を生きる登場人物の息づかいを通して、だからこそ身近に、リアルに、想像することができるのだと思います。
知世さんは雑誌や新聞のインタビューで、昔の人は気持ちを目で語ると言ってました。
時として、台詞とはうらはらの気持ち。ちょっとした動作をするときや相手の言葉を聞く時にあらわれる気持ち。
それが目にあらわれるというんですね。
そうした、いわゆる“目の演技”が、紙屋悦ちゃんの内面をていねいに伝えてくれてた。おれたち観客は、じゅうぶんに想像を巡らせることができたと思います。

しかしながら、ストーリーに関わる悦ちゃんの内面は、謎です。あいまいです。
明石(松岡俊介)への恋心。
これは、ふさ姉さん(本上まなみ)の女の直感と、思いやりある理解によって暗示はされるのですが、明確には口にされません。
悦ちゃんの明石への想いを想像させるポイントはいくつかあります。
持ち込まれた縁談の話を聞いた時、その相手がまだ誰ともわからない時。
その相手が、明石の紹介と知らされた時。
明石はいつ死ぬかわからぬ身であり、その相手はそうでないということを、改めて兄・安忠(小林薫)が言葉にした時。
……これらの場面では、しばしば顔をうつむかせるものの、その表情を読み取ることができません。
日常会話にまぎれて、流されます。
一方で、その相手・永与(永瀬正敏)の素朴な誠実さに接して憎からず想う心の変化。
こちらは、いわゆる“目の演技”でもヴィヴィッドに語られます。
お見合いの場面では「ふつつかなものですが、よろしく……」と言い、兄・安忠への手紙では、永与のことを「よか人」と報告もしています。
が、そこに葛藤はなかったのか。二つの想いに切り裂かれることはなかったのか。
……は、わかりません。わからないまま、物語は進行していきます。
訪ねてきた明石の目の前で、永与への気持ちを聞かれた時も、言葉をにごしたその表情から本心をうかがい知ることはできません。
しかし、死へと旅立つ明石に「ご自愛下さい」と、涙をのみこみながらも、言わなければならない場面。
そして、明石が去ってからの号泣。
ここでいっきに心情が吐露されます。
どうしようもない哀しみ、自分自身の葛藤、こうした不条理さを生む戦争へのわだかまり……たぶん、そうした諸々(もろもろ)が感情の中にあふれ、爆発する。
そしておれたち観客は、彼女の明石への想いの深さを、ここで知ることになります。

これには、感情を表に出さない悦ちゃんというキャラクターもあるでしょう。
夫の安否を心配して身が細る思いをするくらいなら、日本は負けたっていいと口走る、ストレートなふさ姉さんとは対照的です。
また、これは、当時の人々のナイーブさでもあったでしょうか。
あるいは、
「恋し恋しと 鳴く蝉よりも 鳴かぬ蛍が 身を焦がす」
というような、日本人的な奥ゆかしい美意識というか、心性もあるでしょうか。

いえ、ナイーブさは日本人の専売特許ではないようです。
黒木和雄監督の回想に、こんなエピソードが綴られていました(「私の戦争」岩波ジュニア新書)。
監督が、構成演出に携わったセミ・ドキュメンタリー「かよこ桜の咲く日」の撮影現場。
この番組は、ポーランドの女子学生が、コルベ神父(ナチスのアウシュビッツ収容所で他人の犠牲となって命を落とした方)について調べていくうちに、彼と長崎の関わりを知り、来日して長崎の原爆の犠牲となった方々を訪ね歩くというものです。
ポーランド人のヨアーシャさんが演じた主人公の女学生はフィクションの存在ですが、彼女が被爆者の体験を聞いて歩くところは、ノンフィクションのドキュメンタリー。
そのうちの一人のおばあさんの話を聞くシーンを撮り終えたときだったそうです。
全身ケロイドで手足も不自由な彼女に、微笑みながらキスして別れの挨拶をしたヨアーシャさんは、その直後、ふっつりと姿を消す。
スタッフがさんざん探しまわっていると、30分以上も経ってから現われた。
というのも、おばあさんの話を聞いているうちに、胸がつまり、どうしようもなくなった彼女は、ひとりになることのできたトイレでずっと号泣していたのでした。

原作が始めからありきの「紙屋悦子の青春」の1シーンが、このエピソードと関係があるとは、もちろん思いません。
しかし、ひとりになった台所で泣き崩れるひとりの日本人女性の撮影を見守る黒木監督の脳裏のどこかに、やはり戦争の悲惨さを追体験したポーランドの少女の姿があったような気がしてなりません。
彼女たちのナイーブな感性に刻まれた言いようのないかなしみ。
それは大仰に演じられ、饒舌に語られることなく、淡々とした抑制された態度の中に切々と刻まれ、それゆえにその破れ目から噴き出した感情の爆発は、激しく、深く、そしておれたちの心を揺さぶるのだと思います。

(つづく)

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2006_09_03

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